がん診療について

がん治療について

泌尿器がん治療の現状 前立腺がん・膀胱がん・腎がん
前立腺がん

当科では、年間150例前後の前立腺がんの患者さまを治療しています。前立腺とは男性にある生殖器であり、主に精液を産生しています〔図1〕。
前立腺がんは、人口の高齢化、および食生活の欧米化により近年激増しております。栃木県では、自治体における50歳以上を対象としたPSA※検診が年々普及しつつあります〔図2〕。一次検診(PSA検診)により、要精検(精密検査)となった場合は、二次検診として泌尿器科を受診されることになります。
検診だけでなく、排尿に関する症状があり、泌尿器科を受診される場合も、PSA測定および前立腺の診察を行います。具体的には触診、MRI等の画像検査を行っています。前立腺がんが否定できなければ次のステップである、前立腺生検に進みます。
※PSAとは、前立腺上皮から分泌される蛋白分解酵素で、精漿中に分泌されます。これは前立腺特有のマーカーですが、「がん」だけで上昇するわけではなく、前立腺炎や前立腺肥大症でも上昇し、加齢によっても変化します。

イメージ図 尿路生殖器

前立腺生検とは

図3:超音波ガイド下前立腺生検(経会陰法)
イメージ図 超音波ガイド下前立腺生検(経会陰法)前立腺がんが疑われる場合に、正確な診断をつけるために施行します。当院では、2泊3日の入院での検査です。腰椎麻酔または全身麻酔で行われ、会陰部から超音波の画像を見ながら、前立腺にボールペンの芯くらいの針を14か所刺して組織を採取します〔図3〕。このような検査でがんの診断がついた場合、それぞれの患者さまについて病期(ステージ)を決めるための画像検査をします。がんの広がりや患者さまの状態を考慮して主に次の3つの方法から一番合う治療を患者さまとともに相談して、選択し治療しております。


内分泌療法

イメージ図 内分泌療法内分泌療法は全身療法に位置付けられます。前立腺がんは、男性ホルモンであるアンドロゲンが原因となっておこる疾患です。アンドロゲンの95%は精巣からのテストステロンで、残りの5%は副腎から分泌されます。
アンドロゲンを除去すると前立腺は小さくなり、前立腺がんはアポトーシスという細胞死をすることがわかっています。アンドロゲンの除去は①両側精巣の除去、②下垂体に効かせるLH-RH製剤の注射と抗アンドロゲン剤の内服によりなされます〔図4〕。当科も含めて現在のところ②が一般的です。副作用として、体の火照り感や骨粗しょう症があります。

放射線療法

図5:放射線療法
イメージ図 放射線療法放射線療法は局所療法に位置付けられます。前立腺に放射線を照射します。①体の外から放射線を当てる外部照射、②前立腺に小線源を穿刺したり、埋め込んだりする組織内照射があります。当院では、①の外部照射を施行しています。放射線科との連携のもと、3次元原体照射という先進の照射法が行われています〔図5〕。これは、CTにて標的病変(前立腺がん)の形状を把握し、安全に高線量をかけます。副作用としては、頻度は少ないものの、直腸の炎症による出血・血尿・頻尿・尿道狭窄・排尿困難等があります。

手術療法

手術療法も局所療法に位置付けられます。手術で前立腺を摘除し、膀胱と尿道をつなぎます。手術方法により①開腹手術、②腹腔鏡手術、③腹腔鏡小切開手術があります。当科では、③の腹腔鏡小切開手術が施行されています。小さな切開(通常6~7㎝)にて、高画質の『ハイビジョン腹腔鏡』という、内視鏡の視野のもとに前立腺を摘出します〔図6〕 。開腹手術の創より小さいため、術後の疼痛が軽減されます。また拡大視野のもとにできるので、質の高い手術が可能です。この方法は、炭酸ガスでお腹を膨らませることはしません。2019年より、手術用のロボット支援システムによる手術が導入されます。

図6:腹腔鏡小切開手術
イメージ図 腹腔鏡小切開手術

イメージ図 ダヴィンチ

膀胱がん

当科では、年間150例前後の膀胱がんの患者さまを治療しております。膀胱がんの症状は、痛みのない血尿が特徴です。外来検査である、超音波検査や膀胱ファイバースコープにて診断します。また、がんの根の深さを診断するために、CTやMRIの検査も追加します。治療としては次の2種類の手術方法があります。

経尿道的手術

図7:経尿道的膀胱腫瘍切除術
イメージ図 経尿道的膀胱腫瘍切除術がんの根が浅い場合は尿道から手術用の内視鏡をいれて、がんごと膀胱粘膜を切除します〔図7〕。膀胱がんの約80%がこの手術で治療されています。当院では基本的には3泊4日の入院です。

膀胱全摘除術 + 代用膀胱造設術、膀胱全摘除術 + 回腸導管造設術

がんの根が深い場合は、約20%の患者さまに見られます。それらの患者さまの多くは膀胱全摘除術が必要になります。その場合、膀胱がなくなるので尿路を変更しなければなりません。
尿路変更の種類として、回腸の一部を使用し体外にストマ※として出す『回腸導管』と、回腸で新しい膀胱を作り、膀胱を摘除した後に置き換える『代用膀胱』があります。
当科では、代用膀胱造設術を得意としております〔図8〕。適応があれば積極的に施行しております。これにより患者さまは術前と同じように自分で排尿することができます。
※ストマとは、消化管や尿路の疾患などにより、腹部に便又は尿を排泄するために増設された排泄口のことです。

図8:Studer式回腸代用膀胱造設術
イメージ図 Studer式回腸代用膀胱造設術
腎がん

当科では、年間50例前後の腎がんの患者さまを治療しております。典型的な症状は、血尿や腹部腫瘤ですが、最近は検診での超音波検査で無症状のうちに見つかることが多くなっています。治療の基本は手術による摘除です。当科では、患者さまの適応によって次の治療を施行しております。

腹腔鏡下腎摘除術

高画質のハイビジョン腹腔鏡を使用します。手術用の道具が入る操作口を作成し、炭酸ガスで腹腔を膨らませて、腎臓を摘除します。中等度の大きさのがんが適応になります〔図9〕。

図9:腹腔鏡下腎摘除術
イメージ図 腹腔鏡下腎摘除術

腎部分切除術

小さな腎がんや、腎臓が一つしかない方、腎機能が悪い方には、腎臓からがんだけを切除する方法があります。通常は開腹手術にて施行していますが、今後はロボット支援システムによる手術を予定しております〔図10〕。

図10:腎部分切除術
イメージ図 腎部分切除術

おわりに

以上、泌尿器科における代表的ながん治療について解説しました。その他、精巣腫瘍、腎盂尿管腫瘍および副腎腫瘍をはじめとする後腹膜腫瘍等を治療しています。心配な事がございましたら、お気軽に泌尿器科外来にてご相談ください。

ページTOPへページTOPへ

※このページの記事は、院外報「みやのわ」No.41 2013年10月秋号 の内容を元に、2018年12月に内容を更新、2023年1月に内容を確認し掲載しています。